シャルマ氏指導の下、IVN は15年に
オランダ初のミニ森林をザーンスタットの町に作り、
独自のハンドブックを公開した。
まず、近くに生えている樹木を調べ、その土地本来の種は何かを選定する。
オランダには、ブナ、オーク、カバノキ、のほか
セイヨウカンボクやハシバミなどの低木が自生している。
IVN 創立者のダン・ブライヒロット氏によると、
通常は20−40種の木や低木の苗を
1平方メートル当たり3本ずつ植えるという。
IVN は地元の学校、住民、自治体と協力して、
各地でミニ森林を作る公共プロジェクトを進めている。
使用する面積は、大体テニスコート一面分の200ー250平方メートルだ。
土地はどんな形でも構わないが、IVN のハンドブックでは、
少なくとも4メートルの幅が必要とされている。
費用は、森林で自然教育を行う教師の訓練も含めて、
平均2万−2万2000ユーロ(約260万円ー290万円)かかり、
IVN と自治体がこれを折半する。
個人の場合はそれよりも安く、3000ユーロ(約40万円)
以下で自分の所有する小さな土地にミニ森林を作ることが出来る。
ブライヒロット氏によると、現在オランダには
約60ヶ所の裏庭にミニ森林があるそうだ。
さらに狭い土地しかないという人のために、
19年には6平方メートルで出来る超ミニ森林キットを開発した。
オンラインで124,95ユーロ(約1万6.500円)で注文出来る。
ユトレヒト市の緑化計画の上級顧問を務めるイエロン・シェンケル氏は、
自然の力を利用して都市部の熱波の影響をやわらげ、
土壌の保水力を向上できるとして、ミニ森林に期待を寄せている。
豊かな生物多様性
オランダのワーへニンゲン大学の研究者が
21年4月に発表したデータによれば、
ミニ森林には様々な動植物が集まってきていることがわかる。
ボランティアが11ヶ所のミニ森林を調査したところ、
動物は636種、植物は最初に植えられた種以外に298種が観察された。
森林管理としては、時折しつこい雑草をぬくほかは、
ほとんどの場合、野草など新しい植物が生えてきても
そのままにしておくと、ブライヒロット氏は言う、、、。
世界自然保護基金(WWF) は20年、
オランダに生息する野生生物の個体数が過去30年間で
半分に減少したという報告書を発表した。
中でもチョウ、鳥類、爬虫(はちゅう)類が深刻な打撃を受けている。
だが、WWF でオランダ森林部門長を務めるスザン・バルクマン氏は、
小さなプロジェクトでも都市部で
生物多様性を広げることは可能であることを、
ミニ森林のデータは示していると話す。
CO2の吸収・固定も
二酸化炭素(CO2) の吸収固定に関しては、このミニ森林方式は、
オランダでの他の形態による森林再生プロジェクトと同等の効果が
あるという暫定的なデータが出されている。
ワーへニンゲン大学の研究で、ミニ森林は20年に平均して
約127,5キログラムのCO2 を固定していたことが明らかになった。
この割合は同じくオランダにある別の10年未満のより
広い森林とほぼ同じだ。
ミニ森林だけを比べてみると、場所によって固定量にばらつきがある。
最も古い森林の一つであるザーンスタットの森林は、
面積が245,7平方メートルで、20年の固定量は631,2キログラムだった。
一方、アルメレという町に18年に作られた新しいミニ森林は、
面積が231,6平方メートルで、
固定したCO2 の量はわずか4,3キログラムだった。
だが、この場所では何者かによって樹木が傷つけられたため、
固定量が減った可能性があるという。
この他、別の場所での同じ樹木種による炭素固定量を含む研究を基に、
平均250平方メートルの森林が成長した場合、年間250キログラムの
CO2 を固定するようになるという予測結果が出されている。
この数字はオランダにある10−50年程度の年齢の森林の平均的固定量と
ほとんど変わりがない。
ワーへニンゲン大学による20年の研究では、
10−50年程度の年齢の森林において、
ミニ森林と同等の面積の場合に固定出来るCO2 の量は
年間227,8キログラムとされている。
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17年に、年間を通してミニ森林の観察を行った結果、 生物多様性が豊かになっていることが明らかになった |
ブライヒロット氏は、興味深い数値であるとしながらも、
小さな土地の森林だけで気候変動を解決することは出来ないと指摘する。
炭素排出量を削減することだけが、気候変動の唯一の解決法なのだ。
「このプロジェクトの主な目的は、人々と自然を結びつけることです。
炭素固定も出来るなら素晴らしいですが、
これに関して私たちは目標を設定しません」
英オックスフォード大学の「自然に根ざした解決策イニシアチブ」
に参加するセシル・ジラルディン氏は、5月12日付で
学術誌「ネイチャー」に発表した論文で、
55年に地球の平均気温が工業化以前よりも1,5度上昇すると仮定して、
自然に根差した解決策は一定の効果はあるものの、
経済の脱炭素化にとって代わるものではないと、ジラルディン氏は言う。
ミニ森林は、炭素固定の側面から評価するのではなく、
都市部の気温を下げ、土壌の保水力を改善させ、
生物多様性をもたらすという点に注目した方がいいという。
土地本来の樹木は、その土地の環境に適している。
それを選んで植えることによって、長期生存可能な生態系を作る事が出来る。
だが、ミニ森林を作るために自然の草地を削ったり、
公共の庭園を撤去するようなことは避けるべきだと
ジラルディン氏は言う。
そして、プロジェクトは森林に限らず、例えば自然な草地を
そのまま保存することなどを検討しても良いのではと、同氏は提案する。
「ミニ森林と呼ぶのではなく、ミニ生態系と読んだらどうでしょう」
(文 ELIZABETH HEWITT、訳 ルーバー荒井ハンナ、
日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年6月25日付]
紫の部分は私が調べて入れました。