【海外生活】「愛され空間」作りに欠かせない仲人【カナダ】
第13回目はインテリアデザイナー の清水嗣保子さんです。多様な人々が共存するバンクーバーで異なる文化や価値観それぞれの良さを取り入れながら自身のスタイルを確立し、インテリアデザイナーとして長年活動されています。日本とカナダでのインテリアデザイナーとしてのご経験から、それぞれの働き方の違いやカナダでインテリアデザイナーとして活躍されるまでに至るプロセスをお話ししてくださいました。
さまざまなバックグラウンドやキャリアを持つ人々が集まる町、カナダ・バンクーバー。そこで活躍する日本人の方々とこれまでのステップや将来への展望を語り合う「カナダ・バンクーバーの今を生きる日本人」。それではどうぞ!
──インテリアデザイナーとしてカナダにいらっしゃったきっかけは?
日本ではインテリアデザインの学校に通っており、卒業後はリノベーション・輸入住宅の仕事をしていました。神戸での震災をきっかけに「ポスト&ビーム」で家が倒れるというのを経験しましたが、カナダの家が「プラットフォーム型(箱型)」で壊れないという点に注目し、そのような住宅を建てたいという会社が日本にもありました。私自身も買い付けのためにカナダを何度も行き来するなどその頃から交流があり、「カナダで仕事するのもいいんじゃないか」「カナダの景気もいいので、勉強を兼ねて来ないか」と声をかけていただいたことが転機となり、カナダへ来ることになりました。
──カナダに来られた当初、まずは大学に通われていたんですよね。
BCITでは3年間、ビジネス、アカウンティング、マネジメント、インテリアを勉強しました。日本とカナダの建築やインテリアは全く違っていて、日本での経験があってもカナダで改めて勉強をしないと資格があるとは見做されず、雇ってくれないと聞いていました。でも、学校へ通ったことで住宅から商業施設までをカバーできましたし、業界の中でも同じ学校を卒業した方が多くいることがわかったので、そういう意味でもまずは学校に通ってよかったと思います。BCITの先生方は現場で実際に活躍されていた方達なので、実用的なスキルや知識を勉強できましたね。
──アルバイトを選ぶ際、ご自身のキャリアに関連するものを選ばれたそうですね。
いくつかのアルバイトをした中でThe Home Depotという、建築材料が多く揃うお店で働いたことが私にとって一番よかったと思います。研修もしてくださり、材料を全て教えてもらい、3年間でキッチンとお風呂周りに関することを全て覚えました。
カナダではバスタブやトイレを買って取り付けるという日本では考えられない文化があり、そういった感覚は実際に働いてみるまでわからなかったことです。例えばキッチンを変える際に、日本ではシンクの種類をメーカーや2、3種類の色の中から選ぶのに対し、カナダではメーカーやサイズ、オーダーメイドなのか在庫商品なのかなど選択肢がすごく多いです。デザイナーにとっては全てを選ばなければならないですがとても楽しいです。
フローリングに関しても、日本では多くて6種類くらいですが、カナダではメーカー、色味、樹木の種類など何百種類もの選択肢があります。「どの木が好きですか」「木のデザインはどうしますか」「どんな色のステインを塗りますか」などプロセスが長く、高価なものになります。
──選べる楽しさはありつつ、プロでなければ決めきれなさそうです(笑)例えば、住宅に関してインテリアデザイナーのお力を借りたい場合、どの段階でお願いするのが最適ですか?
選択肢が多くて自分では決められないとなった時点で呼んでいただくのが1番良いと思います。自宅など改装予定の場所を実際に見せていただいて、工事業者やインテリアデザイナーと共に予算などから優先順位を決めていきます。
お店など商業の場合も同様です。最初の段階で呼んでいただき、私の場合はお客様の目線になって、膨大な建築材料や工事内容について工事業者とコミュニケーションや交渉を進めます。市に申請をする場合、新旧の建築基準を擦り合わせる必要がありますし、予算や希望に沿った改装をお客様にご提案しています。
日本では工務店(工事業者)にデザイナーなども全て含まれていますが、カナダではプロジェクトが始まった時点でデザイナー、設計士、工事業者がそれぞれ入ります。私自身は、お客様にとっての橋渡し的な存在となり、多すぎる情報をある程度噛み砕いた状態にしてお客様に選択肢としてご提示しています。
──日本とカナダではインテリアデザイナーに対する捉え方が違うのですね。
ちょっと違うと思います。日本で同じ学校を卒業した同級生は設計士になっている方が多く、設計もインテリアも両方されている印象です。カナダは人種も違えば単価も違い、建物は設計士、中はデザイナーというように棲み分けがきっちりされています。デザイナーの地位はすごく確立されていると感じます。
コミュニケーションを通して愛される空間を作り上げる
──日本とは異なる環境の中で、清水さんはどのようにお仕事されているのですか?
基本的には既存のものをカスタマイズするスタイルをとっています。お客様と実際にお会いし、お話を通して好みなどを吸収し、この方達にはどういうものがいいかなと考えるんです。私自身はアーティストでもデザイナーでもないと思っています。お客様にとって居心地の良いものは何かなと探していくプロセスがすごく好きなんです。お客様とは長いお付き合いをさせていただけることが多く、お客様の方から新しいご縁を繋いでいただけることもあります。私自身も安心してお仕事を進められますし、お客様にとっても大きなお金なので安心感を持っていただきたいですね。例えば改装の場合、予算が有効に使われているかどうかは最後にわかりますから。
──お互いに安心して進められるということを大切にされているんですね。
みんながハッピーでいてくれたらいいと思っています。家に入った瞬間に、その空間が愛されたかどうかを感じるんですよね。ずっとカスタマイズをしてきたので、自分の家じゃなくても作っていると愛着が湧いてくるんです。大事に綺麗にされているか、管理費が有効に使われているかどうかなど、人の気持ちが細部に出てきます。
私の場合は一緒に働いているチームがあり、企画担当者や工事業者などお客様に応じて役割分担をしています。働いている方達には明るい気持ちで仕事をしてもらいたいんです。そうするとパフォーマンスも良くなると思います。私が手がけた飲食店のお客様にも「この空間愛されてるよね」と言っていただくことがあり、伝わるんだなと実感しています。
──「愛される空間づくり」をする上で大事にしていることはありますか?
一番大事にしているのはコミュニケーションです。電話でできることもたくさんありますが、お客様の熱量も直接お話をして感じたいんです。会うことによって生まれるアイディアもありますから。
コミュニケーションといえば、こちらの大学へ行くために日本とカナダで1年間英語の勉強をしました。英語は日常会話程度できていたので問題ないと思っていたのですが、大学の授業には最初ついていけず大変でした。だからこそ、もしこれから海外に出るとしたら英語をもっと準備しますね。
日系の会社で働くには英語の不便さは感じませんが、The Home Deptで働いた時に電話越しの英語が全くわからなかったんです。私自身は「やりたいことは自分の力でできるのに、言いたいことが言えない!!」というモヤモヤがすごくありました。今でも建築に関して行政に電話することもありますが、いろんな人と英語でのコミュニケーションができないと大きなミスに繋がってしまいます。その点、英語はやっぱり大事だし大変だなと思います。
「英語はツール(道具)」と言いますが、ある程度のレベルになったらツールと言えると思うんですよ。でも使い方がわからなかったり、拙い英語では自分を売れないじゃないですか。だからこそ、日本にいる間やまだ若い時にひたすらいろんな海外に行ってボランティアをするなど、とにかく英語を磨くことも重要ですね。
カナダに日本人が来ると、英語の話し方と見た目で若く見られて過小評価されることは覚悟しないといけないと思います。まずは堂々と自分の意見を言う環境に自分の身を置くことが大切だと思います。
──「堂々と自分の意見を言う環境」とはどんな所でしょうか?
一番実用的でよかったと思う授業がパブリックスピーキングなんです。プレゼン資料や企画書を英語で作成し、それを自信を持って伝える訓練をすればどの業界でも通用するんじゃないかと思います。そこにプラス英語力があればカナダでどんな仕事にも就くことができると思います。
英語であっても日本語であってもやりたいことを伝える力を持っている方は成功しているような気がします。私の仕事はクライアントの方の夢を叶えることなので、思い描いているものを明確に言ってくださるということは大きいですね。
日本とカナダでの経験や違いを調和させて、それぞれを活かす
──インテリアデザイナーとして働く中で、楽しいこと・大変なことはなんでしょう?
楽しいことは、お客様の頭の中にある「こんな風になったらいいな」という夢やビジネスの目標などお客様のやりたいことを形にできるように想像することです。それを形にできた時、またデザインを通して応援できることはとても嬉しいですね。
長くカナダで生活する中で大変なこともありましたが、日本ではありえないような「なぜ?」と思うことが続いたとしても、日本と比較するのではなく妥協点を見つけて完璧でない仕事環境を受け入れることが大切だと学びました。仕事に関わる人たちの人種や価値観も違いますし、理解して全て受け入れることはとても難しいことなので、毎回のプロジェクトがチャレンジです。
──「比較するのではなく、受け入れる」、外国で働く上では重要なことですよね。
仕事の質や品質の良さ、連絡の仕方などは日本で身についた良い部分だと思うので、海外で働く今もその気持ちは持ち続けなければと改めて感じますし、カナダの方にサービスとして提供し続けたいですよね。
一方で、カナダには日本人にはない色彩の良さや色のコンビネーションがあったり、中国系の方は仕事が早いしネットワークの広さという強みがあります。私の同僚には日本人ではない方々もいますが、足りないところをお互いから学ばなければいけないねという話題は常々出てきますね。
──清水さんにとってバンクーバーはどんな街でしょう?
2005年に来た頃はインターネットやスマホもなかったので、図面一つプリントするのも手描きでプリント屋さんに通うという不便さもありましたが、そういった不便を知ると今のバンクーバーが素晴らしく便利に感じられます。
当時はバスや電車の本数は今より少なかったですし、追いかけられて怖い目に遭ったりすることが何回もありました。今は人がたくさんいて明かりも増えて安心して歩けると思います。必要であれば日本の日常品も十分揃うし日本と変わらない生活ができるので、今ならカナダをおすすめできます。
あと仕事は大きいですよね。カナダでは自分から動かないといけないので、好きな仕事が見つかれば若い人たちにとっては良い環境なのではと思います。
──働き方に関してはどう思われますか?
カナダではお休みを取ることに対してみんなが喜んでくれます。日本に長く一時帰国できたり、余暇の時間や仕事のボリュームを自分で管理できるのでとても嬉しいです。家族がベースにあって仕事とプライベートを大事にしているんだなと感じ、すごく住みやすいと思います。
年齢や性別に関係なく、キャリアが積めるのもいいのではないでしょうか。職業ごとの区別がはっきりしている、感謝の気持ちが目に見えるなどどの仕事の方にもリスペクトを感じる・伝えられる所もここで仕事をするにはとても心地が良いです。みんながそれぞれプロフェッショナルとして対等に向き合ってるという感じです。
特に建築分野は男性社会と言われがちですが、カナダでは私のように女性が入ることについても全く問題ないですね。相手を年齢・性別のみで判断することは言ってはいけない、その人自身や仕事を見るというリスペクトがあると感じます。
将来へ向けて
──バンクーバーでチャリティー活動に参加されているとか?
昔からチャリティーに興味があって、現在はチャリティーランチというファンドレイジングのグループに参加しています。
メンバーが集まってみんなでアフガニスタンやトルコなどいろんな国のお料理を作り、そのお料理に対価を払うんです。メンバーの中にユニセフの方がおられるので、その方の活動資金の一部として貢献させてもらっています。アフリカ孤児の住居や生活のサポート、技術を教える学校の建設などのサポートをしています。そのプロジェクトを通じて3人の女性が初めて家を建てたことを知って、住まいが人を守り、建物が教育を作るのだと実感しています。いつかインテリアというソフトな部分として、子供たちにとって安全な住居や建物をもっとたくさん手掛けるプロジェクトにも参加したいです。
──素敵な活動ですね!清水さんのこれから先のビジョンや目標を教えてください!
出会ってきたお客様の中で素敵だなと思う方々は「コミュニティを良くしたい、誰かを幸せにしたい」という方々なんですよね。私が空間を作り、そこから彼らがもっと広がっていくようなお手伝いをしたいですね。建築・インテリア以外の色々な分野の方と、年齢や業種を超えたコネクションを通して作り上げられるプロジェクトをやっていきたいですし、私の強みを誰かのものづくりやひとづくりの活動へ役立てたいと思います。
それから、日本では消費が少なくても海外で注目されているものはたくさんあると思います。私はここ数年で畳を取り入れた和室を作ったり、組子を取り扱うようになってきました。寝室やバスルームに「和」を取り入れて、リラックスできる空間を一部屋作るというスタイルがバンクーバーでは増えています。例えばですが、南部鉄器がポンと部屋の一角に置いてあるように、日本人の良さやエッセンスをそっと入れられるといいのかなと思います。日本のものを取り入れたい方はたくさんおられますし、ミニマリストや風水も人気がありますよね。日本人の建築に関わる方達とこれからも協力して、日本の細やかな技術や文化を伝え、カナダの建築・インテリアサービスの質を今以上に底上げできるよう貢献していきたいです。
編集後記
清水さんはインテリアデザイナーなので空間を扱っていらっしゃるのですが、プロの仕事には人と人とのコミュニケーションが1番重要だとおっしゃっていました。私も不動産開発会社に勤めており、扱うのは物件であるものの購入から開発、売却、そしてテナントの誘致までどのプロセスをとってもコミュニケーションが欠かせません。建物にまつわる業界なので一見ドライに見えがちなのですが、「住」という目的に心地よさや温かみを注入しようと思うと「人」の要素が顕著に現れるのかなぁと思いながらお話を聞いていました。
清水さんのお話の中で「昔のバンクーバーを知ると今は素晴らしく便利に感じる」というお言葉をいただきましたが、私はこのお言葉にハッとしました。というのも、やっぱり考え方によって世界の見え方が全然違っていて、例えば今自分が持っていないものに対して嘆くのではなく、これまでの人生で得たものは何か、これからどんなものを得られるかを考えるととても温かい気持ちになれます。バンクーバーにはコンビニがないって不満をぶちまけるよりも、コンビニがない分健康的な食生活が送れていると考えてみたりとかですね。大切なことをリマインドしていただけたインタビューでした。
末筆ではありますが、この度はインタビューを快く引き受けてくださった清水さん、本当にありがとうございました。
しほこさんの記事読ませて頂きました。仕事として領分がハッキリしていて良いですね。日本て何となく気を廻しすぎてやり過ぎ、感謝されないところあるけど、個人の時間を大切に考える過ごせるなんて良いですね。
返信削除Shihoko san, it's such an EXCELLENT interview. It's very you. I'm proud of you for being a human.
返信削除Satomi san, thank you for sharing this article.