2024年8月15日木曜日

古代ペルシャの知恵を借りた気候対策!

カルトゥ➖ヤ・カナート パイロット プロジェクトの水道橋

   2022 年の夏、イギリスのロンドンでは、猛暑により鉄道の線路や空港の滑走路
   が溶けました。2023 年 7月、ドイツ人はうだるような暑さから逃れるために
   昼寝を検討し始めました。


   スペイン南部の都市セビリアでも2年越しで気温が 40 度を超え、その熱波は
   非常に強烈で、耐えられないほどだったそうです。
   そのためセビリヤの小さな研究グループは、エアコンを使わずに、涼しく
   するにはどうしたら良いかを模索し始めた結果、大昔に暑さとともに生きる
   ことを学んだ古代中東文化からインスピレーションを得て、カナートに目を
   つけたのです。
   
   「人間と自然の特別な関係」
   マジド・ラバフ・カネイキ氏は、3,000年前の地下水路技術「カナート」を現代
   に持ち込むのに尽力している数少ない専門家の1人です。

   つるはしとシャベルを使って手作業で建設された初期のカナートトンネルは、
   中国、オマーン、アラブ首長国連邦、アフガニスタンに出現しました。
   しかし、学者たちは、最初のカナートは1千年紀初頭にペルシャで生まれ、
   その後世界中の乾燥地帯に広がったと推定しています。

   この古代のシステムは、砂漠の地表から20~200メートル下にある地下水路
   のネットワークで構成されており、高所から低所へ水を輸送。
   わずかな傾斜地に建設された水路は、重力を利用して水を輸送。
   井戸のような一連の垂直シャフトにより、アクセスとメンテナンスが可能に
   なっています。


   上から見ると、このシステムは砂漠に曲がりくねって並んだ何千もの蟻塚の
   ように見えます。本当にすごいのは、水が運河を通って流れる前に地下で
   集められていることです。


   上の二つの写真は私が幸子さんたちと一緒にモロッコを旅行した時、タクシーで
   ワルザザートに着く前に見学したカナート(モロッコではジョフル)です。
   確かあの時はトゥアレグの人たちが管理していました。
   サハラ砂漠の下に水量豊かな地下水があるなんて想像もしていませんでした。


   イランのケルマーン近郊のシャフィアバード村にあるカナート(地下水路)。
   イランでは紀元前1千年紀からカナートが水供給に使われてきたそうです。

   古代のカナートシステムは砂漠地帯での灌漑を可能にし、農業の繁栄を促し、
   コミュニティの協力を促進しました。このシステムは現代のダムよりも
   持続可能であり、気候変動対策のための一つの解決策にもなっているようです。

   古いものを新しくする方法
   中東の乾燥地帯から数千キロ、中国からはさらに遠く離れた場所で、科学者の
   ホセ・サンチェス・ラモスとセルバンド・アルバレスがカナートの概念を利用
   してスペインのセビリア市にオアシスを作り出しています。

   気温上昇の解決策を見つける市の取り組みの一環として、ラモスと
   アルバレスは、エネルギーを大量に消費する技術に頼らずに屋外スペースの
   温度を下げる実験を行う場所を選択する機会を与えられました。

   その選択肢の 1 つは、セビリア中心部の北西にある
   ラ・イスラ・デ・ラ・カルトゥーハ地区でした。この地区はかつて 1992 年の
   セビリア博覧会の会場であり、4,100 万人の来場者を集めました。
   市は、このスペースを都市化するためのいくつかの試みを行ってきましたが、
   現在では、生い茂った低木、ひび割れた歩道、老朽化し​​たモノレール駅など、
   ほとんどが放棄されたような土地になっているそうです。

   しかし、この地域には 15,000 人を雇用する研究開発施設、サッカースタジアム、
   アンダルシア国際大学 (UNIA) があり、万博で使われていたが今は廃墟のように
   なった円形劇場が、ラモスとアルバレスの仕事の中心地となっています。

カルトゥーヤ・カナート パイロット プロジェクトの講堂

   CartujaQanat と名付けられたこのプロジェクトは、ペルシャのカナート システム
   をモデルにしており、ラ・ イスラ・ デ ラ・ カルトゥハ内のサッカー場 2 つ分
   の広さの空間の地表温度を 6 ~ 7 度下げることを目指しています。

カルトゥーヤ・カナート
   
   カルトゥーヤ・カナートでは、地下20メートルの深さに格子状に水道管が
   引かれています。水路の水は循環しており、夜間に地下のタンクで冷やされ、
   昼間にはソーラーパネルの電気ポンプで押し出されます。
   冷たい水が日中にパイプを通ることで、その周囲の空気は冷やされ、その空気
   をファンを使って建物の中に送っています。
   屋外では、冷たい水がミスト状に放出され、気温を下げてくれるのです。

   この構造は大規模ですが、運用にかかるエネルギー量は、化石燃料を燃やして
   エアコンを使い続けるより少ないそうです。このプロジェクトは実験的なもの
   で、欧州連合(EU)の資金を得て、500万ユーロ(約8億6000万円)の予算を
   かけて作られました。
   

   他にも気温を下げるために内壁に木が植えられています。。その木の
   蒸散作用(葉から出る余分な水分が空気中に蒸発する)によって気温を
   下げています。
   また木々は屋外に日陰を作り、屋根は熱を反射する白色に塗られています。

   クリエイターたちは、このスペースが大学生や近隣の企業で働く人々の
   交流の場となることを期待しています。
   「このプロジェクトは、通りに活気を取り戻すことを目指しています」と
   ラモス氏は言っています。「また真夏には避難所として利用でき、屋外活動が
   継続できるようになります」。

   素晴らしい未来
   ラモスとアルバレスは、ラモスがセビリア大学でアルバレスの生徒だった 30 年
   以上前に出会いました。

バードギール(採風塔)

   それ以来、彼らはセビーリャの涼しさを保つために協力してきました。
   1990年代には、ペルシャの風を捕らえるバードギールと呼ばれる塔から
   ヒントを得て、セビーリャの通り沿いに風洞を作りました。


   バードギールは、風を捕らえて下向きに導くための上部の開口部を備えた塔です。
   風が日干しレンガの隙間から入ると塔の中は対角線上に仕切りがあり、風の道は
   4つに分かれています。4つの面から入った風はそのまま逃げてしまうことなく、
   用意された4つの道で下に向かい、貯水槽を通って冷たい風となって送風口から
   家の中に入るようになっています。

   彼らはこのように、しばしば他の国々、特に何世紀にもわたって猛暑に対処
   してきた国々の知恵から解決策を見つけてきているのだそうです。

   たとえば、現代のモロッコの建物は、自然光を取り入れながら冷却効果を
   最大限に高める北向きの大きな窓と南向きの小さな窓を含むように設計
   されています。米国のロサンゼルスとインドのアーメダバードでは、太陽光を
   最大98.1%反射し、紫外線を吸収する新しいタイプの白い塗料を使用しており、
   都市の暑さに対抗し、エネルギー消費を削減するのに役立っています。
   白い反射塗料は、モロッコとギリシャで何世紀にもわたって使用されており、
   有名な都市の1つが「カサブランカ」(白い家)ですね。

   「アラブ世界がそれをしたのは、彼らには… 移動するか死ぬか、建物を
   冷やす何かを見つけるか、どちらかが必要だったからです。そして彼らは
   建物を冷やす方法を見つけました」とアルバレスは言っています。
   
   セビリアでの取り組みは、数千年前に建設されたシステムを現代風に再考
   したものです。

ザラックのカナート

   イラン当局は近年、ユネスコの世界遺産となったザラック(Zarch )にある
   約3000年前に建設されたとされる世界最長・最古のカナートの復元を目指
   しています。

   大量の電力を消費するエアコンとは違い、費用はかからず二酸化炭素も排出
   しないカナートと採風塔の換気設備が、近い将来世界中で導入されるように
   なるかもしれませんね。

  

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