2019年9月17日火曜日

「世界一幸せな国」はグリーン国家     先進国家デンマークのリアル        本間美夏(フォーブスより)


     この夏、日本は記録的な猛暑日を更新し続け、
     欧州は異常な熱波に襲われた。
     熱中症で命を落とす人も年々増加している。
     気候変動の影響は、私たち一人一人の 生活や命に
     影響を及ぼすレベルに到達している。
     それにも関わらず、具体的な環境対策に
     本気で取り組む組織はまだまだ少ない。

     なかなか手が出せない理由の一つに、
     「環境対策は経済活動にマイナス」という認識があるだろう。
     しかし、世界には経済成長を続けながら
     CO2排出量を減少させている国がある。デンマークだ。

     九州と同じくらいの広さの土地に、
     兵庫県と同じくらいの人々(約570万人)が暮らす、
     北欧の小さな福祉国家・デンマークは
     「世界一幸せな国」として知ら れている。
     国連が2012年から発表している「世界幸福度ランキング」では、
     2019年現在に至るまでトップ3圏内に君臨している
     (ちなみに日本は51 位〜58位)。

     デンマークは同時に、環境先進国でもある。
     風力・バイオマス・太陽光などを利用した
     自然エネルギーの国内生 産が進んでおり、
     2050年には化石燃料の使用をゼロにすることを目標に掲げている。
     原子力発電は1985年に法律で禁止済みだ。
     サステイナビリティに対 する国民の意識も高く、
     スーパーにはオーガニック食材が溢れ、
     主な交通手段は自転車。
     環境系スタートアップもどんどん生まれている。

コペンハーゲンの公園。短い夏の間は、多くの人が自然の中で日光浴を楽しむ
      
     しかしデンマークも昔から環境への取り組みが
     盛んだったわけではない。
     石油危機のあった1973年時点では
     エネルギーの9割を輸入に頼っており、
     原子力発電所を増設する計画も検討されていた。
     ここから大きく舵を切り、
     約25年後には世界をリードする自然エネル ギー大国として
     名を馳せたのだから驚きだ。
     エネルギー消費に伴う一人あたりCO2排出量は、
     1990年から約25年間で約40%減少している。


     「国のお荷物」から「世界のモデルケース」へ

     デンマークの首都コペンハーゲンから
     車で2時間ほど南下すると、
     ロラン島という人口約4万人の島がある。
     平野が広がるこの島には多くの風車が設置されており、
     島で必要な エネルギーは100%
     自ら生産した自然エネルギーで賄っている。
     サステイナビリティの先端を行く島として、
     世界の政府・企業・研究機関から注目されるモデ ル地区だ。
     このロラン島も、20年ほど前は全く様子が異なっていた。
     石油危機の影響でかつての中心産業だった造船業が衰退し、
     高い失業率と人口流出による財政危機に苦しんでいたのだ。

     転換のきっかけは、1998年にこの島のコミュニティが
     「環境」を自らの経済復興の柱として掲げ、
     地元の資源を使った自然エネルギーの
     事業化プロジェクトを 仕掛け始めたことだ。
     土地を整備し、国内外から環境分野の企業や研究機関を誘致し、
     最新技術の実験的な導入ができる場所として提供した。

     こ の施策が雇用の創出と経済の活性化に繋がり、
     1994年に19%だった失業率は2008年には2.8%にまで減少。
     もともと環境関連の産業があったわけで もなく、
     衰退していく地方都市の一つに他ならなかった島が、
     たった10年近くで150%の自然エネルギーを生産する
     世界のモデル地区へと変貌を遂げたの だ。


     これを支えたのは、
     住民の強いオーナーシップを活かす仕組みだ。
     一般家庭による「マイ風車」の設置や、
     地元 の協同組合による出資を助ける補助金や税優遇、
     そこで生産されたエネルギーを固定価格で買い取る仕組み、
     一部の企業や富豪による寡占を防ぐための制約、
     運用課題に関する情報交換の場など、
     そこに住む多くの人々が直接参加し
     利益を得やすい仕組みがデザインされてきた。

     窓から見える距離に自分が出資した発電装置があり、
     自らの利益になる。
     自然エネルギーの生産と活用に当事者意識が生まれれば、
     一人一人が本気で考え、意見交 換が加速していく。
     デンマークには、このように個人や地域の
     自発的な行動を促進させる枠組みが多い。
     アジャイルな組織に重要な、個人同士の対話・
     現場への 権限付与・トップの強いリード
     といった要素が揃っているのだ。

     福祉国家 ≠ 国任せ。ベンチャー企業のような国家

     筆者はかつて、デンマークが
     税金の高い平等な福祉国家だと聞いて、
     「国が決めたことに住民が従う」構造をイメージしていた。
     しかしデンマークが環境先進国と なった経緯を振り返ると、
     住民が考える機会を持ち、
     住民の意志で自然エネルギーが選択され、
     住民が平等に力を発揮しやすいような枠組みを国が提供する、
     質の高い民主主義を実現している国である事が分かる。

     「デンマークは小さい国だから、
     誰かに任せていたら回らない。
     国も地方も、男も女も関係無く、
     一人一人が参加して協力する必要があるんだ」
     という現地の声を聞いたことがある。

     住民と政府の距離が近いデンマークの投票率は、
     1945年以降80%を一度も下回った事がない。
     一人一人がオーナーシップを持って
     力を発揮し合うこの組織(国)は、
     ビジョンに向かって信頼する仲間と共に挑戦する、
     一つのベンチャー企業のようだと感じた。

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