この夏、日本は記録的な猛暑日を更新し続け、
欧州は異常な熱波に襲われた。
熱中症で命を落とす人も年々増加している。
気候変動の影響は、私たち一人一人の 生活や命に
影響を及ぼすレベルに到達している。
それにも関わらず、具体的な環境対策に
本気で取り組む組織はまだまだ少ない。
なかなか手が出せない理由の一つに、
「環境対策は経済活動にマイナス」という認識があるだろう。
しかし、世界には経済成長を続けながら
CO2排出量を減少させている国がある。デンマークだ。
九州と同じくらいの広さの土地に、
兵庫県と同じくらいの人々(約570万人)が暮らす、
北欧の小さな福祉国家・デンマークは
「世界一幸せな国」として知ら れている。
国連が2012年から発表している「世界幸福度ランキング」では、
2019年現在に至るまでトップ3圏内に君臨している
(ちなみに日本は51 位〜58位)。
デンマークは同時に、環境先進国でもある。
風力・バイオマス・太陽光などを利用した
自然エネルギーの国内生 産が進んでおり、
2050年には化石燃料の使用をゼロにすることを目標に掲げている。
原子力発電は1985年に法律で禁止済みだ。
サステイナビリティに対 する国民の意識も高く、
スーパーにはオーガニック食材が溢れ、
主な交通手段は自転車。
環境系スタートアップもどんどん生まれている。
コペンハーゲンの公園。短い夏の間は、多くの人が自然の中で日光浴を楽しむ |
しかしデンマークも昔から環境への取り組みが
盛んだったわけではない。
石油危機のあった1973年時点では
エネルギーの9割を輸入に頼っており、
原子力発電所を増設する計画も検討されていた。
ここから大きく舵を切り、
約25年後には世界をリードする自然エネル ギー大国として
名を馳せたのだから驚きだ。
エネルギー消費に伴う一人あたりCO2排出量は、
1990年から約25年間で約40%減少している。
「国のお荷物」から「世界のモデルケース」へ
デンマークの首都コペンハーゲンから
車で2時間ほど南下すると、
ロラン島という人口約4万人の島がある。
平野が広がるこの島には多くの風車が設置されており、
島で必要な エネルギーは100%
自ら生産した自然エネルギーで賄っている。
サステイナビリティの先端を行く島として、
世界の政府・企業・研究機関から注目されるモデ ル地区だ。
このロラン島も、20年ほど前は全く様子が異なっていた。
石油危機の影響でかつての中心産業だった造船業が衰退し、
高い失業率と人口流出による財政危機に苦しんでいたのだ。
転換のきっかけは、1998年にこの島のコミュニティが
「環境」を自らの経済復興の柱として掲げ、
地元の資源を使った自然エネルギーの
事業化プロジェクトを 仕掛け始めたことだ。
土地を整備し、国内外から環境分野の企業や研究機関を誘致し、
最新技術の実験的な導入ができる場所として提供した。
こ の施策が雇用の創出と経済の活性化に繋がり、
1994年に19%だった失業率は2008年には2.8%にまで減少。
もともと環境関連の産業があったわけで もなく、
衰退していく地方都市の一つに他ならなかった島が、
たった10年近くで150%の自然エネルギーを生産する
世界のモデル地区へと変貌を遂げたの だ。
これを支えたのは、
住民の強いオーナーシップを活かす仕組みだ。
一般家庭による「マイ風車」の設置や、
地元 の協同組合による出資を助ける補助金や税優遇、
そこで生産されたエネルギーを固定価格で買い取る仕組み、
一部の企業や富豪による寡占を防ぐための制約、
運用課題に関する情報交換の場など、
そこに住む多くの人々が直接参加し
利益を得やすい仕組みがデザインされてきた。
窓から見える距離に自分が出資した発電装置があり、
自らの利益になる。
自然エネルギーの生産と活用に当事者意識が生まれれば、
一人一人が本気で考え、意見交 換が加速していく。
デンマークには、このように個人や地域の
自発的な行動を促進させる枠組みが多い。
アジャイルな組織に重要な、個人同士の対話・
現場への 権限付与・トップの強いリード
といった要素が揃っているのだ。
福祉国家 ≠ 国任せ。ベンチャー企業のような国家
筆者はかつて、デンマークが
税金の高い平等な福祉国家だと聞いて、
「国が決めたことに住民が従う」構造をイメージしていた。
しかしデンマークが環境先進国と なった経緯を振り返ると、
住民が考える機会を持ち、
住民の意志で自然エネルギーが選択され、
住民が平等に力を発揮しやすいような枠組みを国が提供する、
質の高い民主主義を実現している国である事が分かる。
「デンマークは小さい国だから、
誰かに任せていたら回らない。
国も地方も、男も女も関係無く、
一人一人が参加して協力する必要があるんだ」
という現地の声を聞いたことがある。
住民と政府の距離が近いデンマークの投票率は、
1945年以降80%を一度も下回った事がない。
一人一人がオーナーシップを持って
力を発揮し合うこの組織(国)は、
ビジョンに向かって信頼する仲間と共に挑戦する、
一つのベンチャー企業のようだと感じた。
0 件のコメント:
コメントを投稿